ゴミの生活(四代目)

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兄弟喧嘩、それもとびっきり陰湿な――羽田圭介『黒冷水』

黒冷水 (河出文庫)

黒冷水 (河出文庫)


高校2年生の正気(「まさき」と読むのだろう、さすがに「しょうき」ではないはず)と、中学2年生の修作。2人の仲は悪い。修作は、正気のいない間に部屋に侵入し、兄が隠し持っているアダルトビデオやエロ本を見つけては「使う」ことを楽しみにしている。正気は、うすうす弟の無断侵入を感じていたが、ある時、自分がしかけた罠(シール)から修作の「漁り」を確信する。親を巻き込みながら2人の対立はエスカレートしていく。


正気は、学校のカウンセラーに相談し、2人の関係が悪化した原因が自分にもあることを理解。なんとか和解しようとするが、修作の姿や行動が視界にはいると、和解への気持ちは「黒冷水」に押し流され、圧倒的な憎悪に突き動かされる。それ以降、修作への反撃として正気がとった行動は、母親の言葉にもあるように、常軌を逸しているものだ。もはや「正気」ではない。病的に修作を追い詰める。


物語は、そこからさらに二転三転する。正直、キレイに物語の枠に収まっている、とは言いがたい。本書は芥川賞作家・羽田圭介のデビュー作。若干、17歳にして文藝賞を受賞したのだ。荒削りなところもあるし、ところどころ人物造詣が甘かったりする(甘いというか、やや幼稚というか)。でもまあ、そんなのは瑣末なことだ。将来の伸び代を考えると受賞で間違いなし。その後も、創作活動を続けられているわけだし。


それにこの物語には「作家は作品を完全にコントロールできない」というテーゼも織り込まれている。なんだかよくわからないぐちゃぐちゃした部分も大事だよ、とブーメラン的に作者に跳ね返っているようにも読める。以前、紹介した『隠し事』に通じる、偏執的に(親密な)他者の目を気にするところは、この作家が好むモチーフなのかもしれない。