ゴミの生活(四代目)

最近はアマプラをdigってます

ユートピアの困難? ――吉田エン『世界の終わりの壁際で』(ハヤカワ文庫JA)

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)


(608文字)

第四回ハヤカワSFコンテスト優秀賞。文庫として登場。来るべき世界の終わりに備えて山手線あたりに巨大な壁が築かれた日本。壁の外と中ではまったく世界が異なる。主人公・音也は壁の外でゲーマーとして生計を立てる。技術だけでは勝ち上がれず、どうしても必要な金を稼ごうと、窃盗に加担。そこで謎の人工知能コーポと、目が見えないが音に敏感な少女・雪子と出会う。そして音也は壁の内外をめぐる巨大な戦いに巻き込まれていく。

壁で世界を分ける、というのは新しい発想ではない。しかし、読んでいて面白い。新しい世界を創造するのがSFの重要な役割なのだが、それができていなくても面白いSFはある。世界の謎が明らかになるわけでもない(続編への含み? 続編はあれば読んでみたい)。そこに生きる人々の生活がきちんと描けていれば、面白いのだろう。どちらかといえば壁の中よりも外のほうが、魅力的に描けていたのは、私たちの世界が壁の外に近いからだろうか? 壁の中がいまいちピンとこないのは、木城ゆきと銃夢』のザレムのしょんぼり具合を思い出した。ユートピアを描くのは、やはり難しい。

ゲームに始まり、もちろんゲームに終わる。伏線の回収はしっかりとできている。ボリュームもあり、デビュー作としては、よくまとまっていると思う。長い作品を破綻なく終えるのは大変なのだ。…とはいえ『最後にして最初のアイドル』のような突き抜けた破壊力はない。今後、どう成長していくか、注目。