ゴミの生活(四代目)

最近はアマプラをdigってます

分量が少ない――つかいまこと『棄種たちの冬』(早川文庫SF)


棄種たちの冬 (ハヤカワ文庫 JA ツ)

棄種たちの冬 (ハヤカワ文庫 JA ツ)


(本文480文字)

物理世界と演算世界に分離した未来の地球。物理世界は環境変動により滅びかかっている。文化を維持できず野蛮に堕した人間は、群れを作り互いに奪い合い殺し合いながら、何とか生きながらえている。廃墟となった街に身を寄せ、猛毒の菌(きのこ)が茂る叢で巨大な六本足のカニを狩猟する。そんな原始的な生活を送る彼ら彼女らは、演算世界の人間からは「棄種」と呼ばれる。演算世界の人間とは、地球が人類に適さなくなることを知り、物理的身体を持たないデータとして演算世界に移住した者たちのこと。

ハヤカワSFコンテンスト佳作受賞後の長篇(…というほどの長さはないかも)。よくある話だ。物理世界の毒キノコとカニは、まさに『風の谷のナウシカ』。さらに演算世界と物理世界の関係も、まさに『ナウシカ』。ウェルメイドで読みやすく、世界に入りやすいのは確かだが「なぜ今この世界なのか?」が読んでいてもピンとこない。だったら『ナウシカ』でいいではないか? もう少し分量に厚みが欲しかった。登場人物を増やし、込み入った出来事を追加してはどうか。世界はきっちりと構築できているので、もったいない(物足りない)。