ゴミの生活(四代目)

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失踪、不在、喪失――森見登美彦『夜行』(小学館)

夜行

夜行

(511文字)

京都。大学時代に同じ英会話スクールに通っていた6人。鞍馬の火祭に参加した帰り、長谷川という女性が忽然と姿を消す。10年後。5人は鞍馬の火祭を見ようと再会。宿泊先の宿で、この10年の間に自分に起こった事を、それぞれ語り始める。いずれの話にも〈岸田道生〉という銅版画の〈夜行〉と題された作品が登場。

長谷川の失踪の謎。各々が語るホラー/ファンタジー/幻想的な話。それがどうつながるのか。各々は、尾道奥飛騨津軽天竜峡で銅版画と出会い、奇妙(というか恐怖? 幻想?)な体験をする。その体験は、それが現実であれば、過去の出来事として語ることなどできそうにない体験だ。語り手はどうやって語っているのか? 森見には珍しく(もないか)、京都以外の土地も出てくる。どの場所も、その場所での語りであることが重要である。トポス。名前と固有性があわさった固有名詞性をもった場所。だから、これらの場所も本質では「森見の京都」に連なる。

結局のところ、失踪=〈不在〉を、どう受け止めるのかがテーマ。これは至極、普遍的な問いかけだ。ぼんくら大学生はでないので、それを期待する向きにはがっかりかもしれないが、森見登美彦の新しい一面でもあり、これはこれで面白い。