ゴミの生活(四代目)

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砂漠に蜃気楼――デイヴ・エガーズ『王様のためのホログラム』(早川書房)

(1154文字)

王様のためのホログラム

王様のためのホログラム

近々映画も公開される『ザ・サークル』の筆者デイヴ・エガーズの手による小説。翻訳は『ザ・サークル』より後だが、原著は『ザ・サークル』より前の2012年刊行。本作も映画があり、トム・ハンクスが主演。日本では今年公開予定。

サウジアラビアにホログラム・システム売るためにやってきたアメリカのビジネスマン・アラン。彼とプレゼンチームは砂漠にある建設予定(途中?)の都市、キングアブドゥッラーエコノミックシティのテント小屋で、王様=キング・アブドゥッラーの到着を待つ。王様がいつやってくるのかは不明。本当にやってくるかも不明。それに、もし来たとしても、テント小屋にはプレゼンに必要なWi-Fi環境もなく、どうしようもない。担当者はいつも不在。受付の人間の対応は丁寧だが、中身がない。本当に歓迎されているのだろうか? 物語は、アランが寝坊して起きるところから始まる。既にシティへのシャトルバスは出発してしまったので、ホテルでドライバーを探すのが最初の仕事。

アランの経歴が面白い。高卒(大学中退)で自転車(自動車にあらず)の営業マン、売り上げ抜群で、やがて本社工場の海外移転に携わるも、アメリカにおける製造業の没落と連動して、IT業界の現職へ転職。離婚した妻との間にいる一人娘の大学の学費を工面できるかどうかが、今回のプレゼンの成否にかかっている。全てが象徴的。製造業からITへ。アメリカから国外へ。砂漠の都市のホログラム。ホログラムというと聞こえが良いが、砂漠の都市でその単語を聞くとまさに「蜃気楼」。現代テクノロジーが凝縮したものであるのは確かだが、同時に儚きもの、実体のないもの、すぐに消えてしまうもののメタファー。

私たちの世界はトランプ以後の世界だ。本書はもちろんトランプ以前に書かれたものだが、トランプ以後の世界とも地続きであることを再確認してしまう。国内雇用の回復。国外への工場移転への反対。関税(国境税?)。なんて言葉や発言がニュースで飛び交う。この時代は、この小説とつながっている。さんざん「いてこまされた」アメリカン・ビジネスパーソンは、人間的・商業的・性的な実存・承認をどうやって補給するのだろう? 

アメリカの書評では「グローバル時代の『セールスマンの死』」といわれ、ベケットの『ゴドーを待ちながら』を連想させると指摘される。私が思ったのは、諸星大二郎の「城」だった。あらすじは紹介しないが(ググってください)、『世にも奇妙な物語』で映像化もされている。「城」というタイトルはカフカ、だろう。ではエガーズもカフカ的不条理なのか? カフカの代名詞は不条理だが、この物語は決して不条理ではない。この物語が不条理であるとしたら、私たちが生きるこの世界が不条理であることを認めなければならない。あ、そうか、不条理なのか、この世界は……。