ゴミの生活(四代目)

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正義も悪もなく、ただ暴力、他人または自分へと向かう暴力――星野智幸『呪文』(河出書房新社)

呪文

呪文

(本文581文字)

近くにオシャレな街+住宅街があり、そこから人が流れてくる商店街・松保。決してにぎわっているわけではなく、古くからある店はゆっくりつぶれ、新しい店もなかなか定着しない。徐々に滅びていく商店街だ。ある日、図領が経営する居酒屋・麦ばたけが悪質なクレーマー・ディスラー総統にネットで攻撃を受ける。図領は、思わぬ反撃にでる。クレームを皆でスクラムを組んで「正しい」主張で押しつぶすのだ。図領の反撃を評価する人たちで松保商店街は不思議な活気を見せ、図領はこれをチャンスに商店街改革に一気に乗り出す。

各章ごとに視点人物は異なるが、軸となるのはトルタ(メキシコサンドウィッチ)屋を経営する霧生。トルタは美味いが、経営の才覚は無く、店の資金繰りに困っていた。図領の動きに警戒を示しつつ、松保商店街改革の実力舞台〈未来系〉の連中の力にさらされ、魅かれていく。

自分の周辺ではかなり話題になっていた。「どんな本なの?」と聞くと「しばき隊みたいな」という返事が返ってくることが多かった。ネットから路上へと発露した右派問わない暴力はどこか根底でつながっていて、ともに究極の自己否定=自死を引き寄せるのではないか。〈未来派〉の連中たちが、「洗脳」の過程で霧生に言う「クズの道とは死ぬこと見つけたり」という言葉は、正義も悪もなく、ただ暴力、他人または自分へと向かう暴力しかないことを意味する。