ゴミの生活(四代目)

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帯に短したすきに長し――つかいまこと『世界の涯ての夏』(ハヤカワ文庫)

世界の涯ての夏 (ハヤカワ文庫 JA ツ 4-1)

世界の涯ての夏 (ハヤカワ文庫 JA ツ 4-1)


第3回ハヤカワSFコンテスト佳作受賞作。1969年生まれの筆者はゲームデザイナーとしてRPGのシナリオを担当している。


突如、地球に出現した〈涯て〉。外見は球体で正体不明。異次元とつながっているのではないか、と疑われている。〈涯て〉は徐々に大きくなり、地球を侵食していく。人類は混乱し、内輪もめという名の戦争を始める。混乱から少し経ったあと。人類は自分たちの置かれた状況を客観的・科学的に見つめなおし、どうすれば〈涯て〉の拡大を防げるのかに取り組み始めた。


人類が導いた答えは人々の脳に祈素(キソ)を埋め込むことだった。〈涯て〉から中継者を経て送られてくる信号を各自の脳の空いたリソースで処理。そうすることで〈涯て〉の膨張を抑えられる。このへん、SETIを連想させる。


物語は3つの視点から進む。ソフトウェアエンジニア・ノイ、古い世代の中継者・タキタ、タキタ彼が子供のころの記憶(中継中に思い出しているもの、必ずしも本当ではない)。そして3つはゆっくりとオーバーラップしていく。印象的なのはタキタの記憶。小さい頃タキタは実験のため(そうとは知らず)科学文明から隔絶された離島へと「疎開」していた。そこで出会った転校生の少女・ミウ。2人の思い出はとても淡い。淡すぎて、現実には存在していないのではないか、と思うほどに。


全体的に物足りない。分量が少ない。大賞作の小川哲『ユートロニカのこちら側』(ハヤカワJコレクション)に載っているがによれば236枚。これは、少ない。倍は欲しい。選評には、小川一水「人類がこの終わり方ともっと戦って、もっと生き生きと滅ぶところが見たかった」、東浩紀「〈涯て〉の正体は最後までわからないままだし、人類の破滅も漠然と肯定されてしまう」、神林長平「登場人物にはリアル世界でもっと敵を打破してほしいが、この物語は〈負けるが勝ち〉といった感覚だ。エンタメなんだから遠慮せずに〈打ち勝て〉と言いたい」などなど。


途中、不穏な展開が予想されるところもあった。読んでいて、そっち側に触れるのかな、「戦い」「打ち勝つ」「謎の解明」へと展開するのかな、と期待したが、そうはならず。〈涯て〉による滅亡という調和の中に回収され、全てがノスタルジーに収斂してしまう。そういう物語だといえばそうなのだが、だったらもっと短くなるのでは? 分量的に中途半端、という印象。あと、登場人物たちの乗り越えるべき障害(葛藤)のサイズが、〈涯て〉の大きさに比べて小さい。特にノイ。


デビュー作なのでこれからの活躍に期待。