ゴミの生活(四代目)

最近はアマプラをdigってます

隠していることを隠している、ことを隠している――羽田圭介『隠し事』(河出書房新社)

隠し事

隠し事

羽田圭介ピース又吉と一緒に芥川賞をとった。当初は「じゃないほう」作家だったわけだが、その歯に衣着せぬ物言いがウケて、バラエティ番組でちょくちょく見かける。ふと立ち読みした最新号の『AERA』にも「情報断捨離のススメ」的な特集でインタビューされていた。

で、どんな作風なのか知りたくなったので、図書館にあった本を借りてみた。残念ながら芥川賞受賞作はなかった(調べてないけど、貸し出し中なのだろう)。

語り手の「僕」は結婚を意識している茉莉と同棲中。ある時、彼女の携帯電話が元カレからのメールを受信したことに気がつく。茉莉は、そのことに全く触れない。彼女は何かを隠している。隠す場所なんてどこにもないようなこのマンションで。「僕」は不安に突き動かされ、茉莉の携帯を盗み見る。しかし当該の元カレからのメール発見できず。どこかに「隠されている」はずだと確信し、見つからない不安と、発見したいという衝動が昂進していく。

ひとたび、疑い始めるとすべてが疑わしく思えてくる。

「僕」は会社の同僚女性に率直に相談をする。でも、そのやり取り自体、彼女から見られたらどう思われるのだろう? 浮気を疑われるのか? なんでもない些細なメールも、文脈をしらない部外者が見たら怪しく思えてくる。

前半は、とにかく「僕」がテンパる具合がよい。彼女の「隠し事」を秘密裏に探るという「隠し事」。隠し事は隠し事を無限連鎖で生み出す。いつかどこかで誰しもが経験したことがある「隠す」という行為を、緊張感もって、しかしデジャビュのように、描くのは上手い。

後半、「僕」が実は記憶術の才能をもっていたことが明らかになる。頭の中を空間的にイメージし、そこに覚えたいものを配置していくようだ。実は、ここからもっとファンタジーっぽく針を振り切って欲しかった。記憶術なんて、それができないものにとっては超能力みたいなもの。もっとファンタジーに、もっとスラップスティックに。内心ではそう期待していたが着地点は、わりと地味なものであった。

手堅い作品。作者はバラエティでの発言はともかく、執筆には非常に真剣に取り組んでいるようで、その手堅さが良くも悪くも作品に出ている。