ゴミの生活(四代目)

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今年刊行の海外SFでベスト3入り確実――ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

(858文字)

今年刊行の海外SFでベスト3に間違いなく入る。傑作。

第二次世界大戦で枢軸国が勝利。アメリカ合衆国は、西海岸を日本が、東海岸をドイツが分割統治。「日本合衆国」として西海岸は生まれ変わる。日系人強制収容所を日本帝国軍人が解放するとこから始まる。本筋は1980年代。スマホに相当する端末も流通し、ITテクノロジーが隆盛を極める改変された歴史=現実。主人公が帝国軍の検閲局に勤める石村。子供のころ両親を国家反逆罪で密告した「愛国者」として知られるが、なかなか出世はできない。ある日、かつて上司で、現在行方不明となっている六浦賀将軍から極秘のコンタクトを受ける。直後、特高からも接触を受け、石村は謀略の渦に巻き込まれていく。

ディストピアだ。大日本帝国軍のイデオロギーがそのまま続いている。検閲は前提、盗聴と過酷な拷問も当然。天皇への侮辱は重罪。この世界では天皇は赤い仮面(!)をつけ、モニタを通じて臣民の前に顕現。天皇の生殖能力への疑義はタブー。(『パシフィック・リム』のアングラ的な)アンダーグラウンドな世界に巨大ロボット=メカも登場。筆者はディックの『高い城の男』に触発されたことは隠さない。『高い城の男』の中に、アメリカが勝つ歴史を書いた小説が登場するが、本作ならばその役割はゲームが担う。

耐える。強靭な精神。そんなものはあるのだろうか? 統治機構と非統治者(臣民)の情報非対称性。知れば知るほど、信じられなくなるのでは? 無知だからこそ振るえる暴力がある。ここに登場する日本人と日本人精神は、もちろんオリエンタリズム的偏光と、オタク(ソフト)パワーで色付けされたもの。日本人読者として、感情移入はできないが、しかし濃縮された日本のコアのようなものは見せつけられた気がする。いや、そもそも、日本人/非日本人という軸自体が有効ではないのかも。特高がいみじくもいったように、純粋日本人は権力欲にまみれろくな人材はいない。場所は日本ではなくアメリカ、日系二世三世の登場人物たち。日本はどこにもないのかもしれない。

続きがあれば読んでみたい。