ゴミの生活(四代目)

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地に足の着いた福島――玄侑宗久『光の山』(新潮社)

光の山 (新潮文庫)

光の山 (新潮文庫)

(455文字)

東日本大震災以降に書かれた短編を集めたもの。

表題作「光の山」」は放射能で汚染された土やらなにやらを一手に引き受けた男の話。

放射能汚染から北海道へ息子を連れて非難した妻と、福島に残って植木屋の仕事をする夫の関係を描いた「アメンボ」。夫は福島にいるので、放射能についてよく調べ、低放射線被曝の問題についても詳しい。科学的根拠を持ち出して妻を説得しようとするも妻は受け止められず、溝は深くなる。

仮設住宅で結婚式を挙げたいと相談された元結婚式場の支配人が主人公の「拝み虫」。式場は津波で流され、除染作業に従事している。胆管癌を患い、体調は良くない。除染作業、仮設での暮らしが描写される。

圧倒的な津波。その後の放射能。筆致は写実的であり、煽情的ではない。放射能を忌避するのではなく、どうしたらそこで生活できるのかを考えようとする姿勢も(登場人物には)見られる。地に足がついた、というのはそういう意味だ。原発事故以降、放射能災害をやたらと特権化し、不安をあおるだけの「文学」もあったようだが、そうではないのが本作品である。